大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和42年(ネ)35号 判決 1970年10月09日

控訴人 財団法人 牛ケ渕報恩会

被控訴人 国

訴訟代理人 叶和夫 外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴人は「原判決を取り消す。原判決別紙一物件目録記載の建物につき、控訴人が所有権を有することを確認する。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二、控訴人は次のとおり述べた。

(一)  敗戦後の日本に対する連合国による統治管理の方式は、日本政府を機関として行なう間接管理方式によつたのであるから、解散団体の財産を没収するには、まず最初に団体等規正令による解散団体の指令が連合国最高司令部の政治局の自主的な判断に基づく指令によつてされ、それにより日本国政府の管掌官庁たる法務府特別審査局の決定により解散団体に指定することが絶対に必要である。そして、団体等規正令によつて解散団体に指定された団体に属していた財産の管理をするのが、総司令部民間財産管理局であり、日本政府の法務府民事局である。しかるに、財団法人軍人会館については、総司令部政治局は解散の指令をせず、特別審査局も解散の指定をせず、したがつて解散団体に指定されないのに、解散団体に指定する権限のない法務府民事局が、同じく権限のない民間財産管理局の承認のもとに、特別審査局の反対を排して、昭和二四年政令三二七号を制定して、軍人会館を解散団体とみなすことによつて、本件物件を国家で没収したのである。これは、政治局や特別審査局の関与していない無権限の違法無効な行為というべきである。

(二)  本件昭和二四年政令三二七号は、その附則に明記されているとおり、公布の日である昭和二四年九月八日施行されたのである。すなわち、財団法人軍人会館を解散団体とみなす効力は、昭和二四年九月八日発生したのである。したがつて、軍人会館については、昭和二三年政令二三八号二条の「解散団体が昭和二十年八月十五日以後その財産についてした処分は、これを無効とする。」という規定は、適用されない。

(三)  本件物件の現所有者である控訴人は、解散団体に指定されず、みなし解散団体にさえ指定されず、財産没収の通告も受けていない(原審において控訴人は「本件建物の所有権は、右改正政令の公布施行日たる昭和二四年九月八日をもつて被告(被控訴人)に帰属した旨を原告(控訴人)に通告してきた。」と主張したが、それは誤であつて、控訴人は官報によつて没収を知つた、と訂正する。)第三者であるから、控訴人は、本件物件の所有権を喪うべき筈がない。もし喪うとするならば、憲法二九条、三一条違反である(昭和三七年一一月二八日最高裁判所大法廷判決・刑集一六巻一一号一五七七頁参照)。

三、被控訴人は、控訴人の右主張に対し、次のとおり答えた。

(一)  解散団体に指定されると、その団体は解散させられ、役員は公職を追放され、その財産は没収される。しかし、財団法人軍人会館については、すでに解散し、その役員はすでに別途公職から追放されているので、解散団体に指定する必要性を欠き、その財産についてのみ昭和二三年政令二三八号による法改正の措置をとれば足りるのである。そこで、わが国の軍国主義的傾向等の団体の経済的基盤を奪うことを使命としている連合国最高司令部民間財産管理局では、占領目的を遂行するための適当な措置として、財団法人軍人会館について右政令二三八号による措置をとるように指示してきたので、日本政府は、右指示にもとづき、昭和二四年政令三二七号「解散団体の財産の管理及び処分等に関する政令の一部を改正する政令」を公布し、右政令二三八号の適用については、財団法人軍人会館を解散団体とみなして、本件物件を国庫に帰属せしめたのである。

右措置は、これが所管部局である法務府民事局が自ら計画し、右民間財産管理官代理の承認をうるという方法によつてされたものであるが、これは昭和二一年一月四日の「或る種類の政党、協会、結社その他の団体の廃止」に関する覚書八項において要求されている方法であり、右民間財産管理官代理の承認が、連合国最高司令官の指令であることは明らかである。

(二)  本件物件は、控訴人の前所有者である財団法人軍人会館の所有当時、有効に国庫に帰属するに至つたのであるから、控訴人から本件物件を没収したことを前提とする控訴人の主張は失当である。

四、以上のほか、当事者の主張は、原判決事実摘示のとおりである。

理由

一、当裁判所も、控訴人の本訴請求を棄却すべきものと判断するのであつて、その理由は、次に付加するほか、原判決理由と同一である。

(一)  <証拠省略>に徴すれば、昭和二四年政令第三二七号が制定されるに至つた経緯は、団体等規正令により解散させられた団体(以下解散団体という。)の財産管理の事務を所管する法務府民事局は、財団法人軍人会館(以下軍人会館という。)は、その目的、役員の人的構成および既往の活動と建物利用の状況等から見て、団体等規正令五条、二条六号所定の団体に該当するので、指定によつてこれを解散させ、その財産である本件物件は、解散団体の財産の管理および処分等に関する政令(昭和二三年政令二三八号)の規定により国庫に帰属せしめるべきであるとの見解の下に解散の指定をするかどうかにつき、団体等規正令による解散団体の指定等の事務を所管する法務府特別審査局の意向をただしたところ、同局においては軍人会館は昭和二〇年八月三一日自発的に解散し、日時もすでに相当経過しており、主要役員の追放も終了しているため、解散指定の措置についてはなお、考慮を要するとの意見であつたこと、そこで民事局としては、特別審査局に再考慮を依頼するとともに軍人会館の目的その他解散の指定をするのを相当とする請事情および仮りに特別審査局において解散の指定をしないことに決定すれば、民事局としては昭和二三年政令二三八号の一部を改正することにより軍人会館の財産を国庫に帰属させるのが適当であるとの意見を記載した文書を政令の改正案文とともに昭和二四年八月四日付で連合軍総司令部の団体の解散関係を所管する政治局と、解散団体の財産関係を所管する民間財産管理局宛に発送して指示を求めたところ、総司令部においては、政治局と民間財産管理局が協議のうえ、民間財産管理局より仮定を排して確定的な内容の文書の提出方を指示してきたこと、民事局においては、右指示に基づいて、特別審査局は団体等規正令による解散の指定をしない方針であるから、昭和二三年政令第二三八号の一部改正により軍人会館の財産を国庫に帰属させる措置を適当とするとの意見を付し、指示を求める趣旨の文書を同月一五日頃民間財産管理局に再提出したところ、総司令部においては、軍国主義ないし軍国主義的勢力の除去という占領目的を達成するために政令の一部改正の措置を必要と認め、民間財産管理官代理陸軍大佐E・C・ミラーの名をもつて、法務府の決定を承認する旨の覚書(APO五〇〇)を発し、右覚書に基づき、日本国政府は法務総裁が主任として加わる閣議の決定を経、昭和二三年政令二三八号を一部改正する昭和二四年政令三二七号を制定、同年九月八日これを施行したことを認めることができる。

以上の事実関係からすれば、総司令部民間財産管理局は、同政治局と連絡協議のうえ、上記覚書の指令を発したものと認められるから、仮りに民間財産管理局にその権限がなかつたとしても、これをもつて控訴人主張のように民間財産管理局が同政治局の権限を侵してした無権限の指令と解する余地はなく、したがつて右覚書は連合軍最高司令官の指令としての効力を有するのは勿論、解散団体の指定および解散団体の財産の管理は、いずれも法務総裁の権限に属し、法務府の内部の部局である同民事局や特別審査局は法務総裁に従属する補助機関たるに止まるから、右政令改正の所管局がそのどちらかであるかはしばらく措き、権限ある法務総裁が主任として加わつた閣議を経て、内閣によつて制定せられた昭和二四年政令三二七号を違法視すべき理由も全くない。

また、右覚書の指令が日本政府機関の樹てた実施計画を総司令部当局において承認するという方法でなされたことも、昭和二一年一月四日付連合軍最高司令官の或種の政党、政治結社、協会その他の団体の廃止の覚書第八項に基づいて採られた措置であり、前記覚書が民間財産管理官代理E・C・ミラーの名をもつて発せられ、「最高司令官に代りて」との資格の表示がないことも、ひつきよう文書の形式の問題に過ぎず、これらの事実は、いずれも前記覚書が連合軍最高司令官の指令たるの効力に消長を及ぼすものとは認められないし、さらに軍人会館が解散団体とみなされるべきかどうかは認定権者である連合軍最高司令官の裁量によつて決せられるところであつて、同司令官によつて解散した団体とみなされるべきものと認定せられた以上、日本国の各機関はこれに拘束せられ、解散措置の適否を判断する余地がないことも多言を要しないところである。

(二)  右政令三二七号によつて財団法人軍人会館は、この政令(昭和二三年政令二三八号)の適用については、第一条の解散団体とみなされた結果、後者の政令第二条が適用され、軍人会館が昭和二〇年八月一五日以後その財産についてした処分は無効とされ(控訴人は、右第二条は適用されないというが、理由がない。)第三条により、その財産は国庫に帰属したものというべきこと法の解釈上疑を容れない。したがつて、本件物件の国庫帰属の法律効果を発生させるために、控訴人を解散団体とみなす措置や官報による政令の告示以外に控訴人に対する特別の通告を必要とするなんらの根拠もない。

(三)  右政令三二七号の公布施行前である昭和二一年四月一五日に軍人会館から控訴人が本件物件を無償で譲り受けていたことは、当事者間に争いないところ、その後軍人会館が解散団体とみなされた結果、解散団体でない控訴人が本件物件の所有権を喪失する結果となつたことは、所論のとおりである。しかし、占領政策遂行のための連合国最高司令官の指令ならびにそれに基づく日本政府の措置は、日本国憲法にかかわりなく、有効とすべきであるから、控訴人の違憲の主張もまた理由がない。

二、よつて、本件控訴を棄却し、民訴法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 仁分百合人 瀬戸正二 土肥原光囲)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例